香港、ドバイ、アメリカを舞台に活躍した名牝。その蹄跡。
ディープインパクト晩年の産駒
ラヴズオンリーユーは、父ディープインパクト、母ラヴズオンリーミー。
全兄にはドバイターフを制したリアルスティールがいます。
名前が意味するのは「みんなへの愛をこめて」
母の馬名から連想してつけられたものです。
無傷の3連勝
11月の新馬戦でメイクデビュー。
スタートは出遅れるも、好位に取り付き、最内を突き抜けて勝利。
続く白菊賞(500万下)も出遅れるも、外に持ち出して末脚を披露。
2連勝を飾ります。
牝馬クラシック第一冠、桜花賞(G1)を目指すも、放牧先での怪我とその腫れが引かず、大事をとって見送り。
賞金加算を図った忘れな草賞(リステッド)を勝利し3連勝。
負け知らずで牝馬クラシック二冠目、オークスに出走します。
史上5頭目のオークス馬
ラヴズオンリーユーには2400mは長く、不安要素があるとみている矢作調教師の見立てとは違い、単勝人気4.0倍の1番人気に推されます。
続く2番人気にクイーンC(G3)覇者、桜花賞2着のクロノジェネシス。
3番人気に前走フラワーC(G3)勝利のコントラチェック、4番人気に阪神JF(G1)優勝の2歳女王ダノンファンタジーと続きます。
ラヴズオンリーユーは中団に位置取り。
向こう正面で徐々に進出し、直線でも伸び脚は鈍りません。
先団から抜け出しを図ったカレンブーケドールとの競り合いを制し、オークス戴冠。
無敗でのオークス制覇は、カワカミプリンセスに続く史上5頭目の記録になりました。
レース後、矢作調教師は「牝馬でこれだけ堂々としているのは珍しい。やはり、海外に行ってみたいですね」と述べ、将来的な海外進出を示唆しました。
父の死
7月30日、競馬界に衝撃のニュースが走ります。
史上2頭目の無敗三冠を達成し、その後も活躍し日本史上最強馬に挙げられ、種牡馬としても数々の名馬を送り出したディープインパクトの死が報じられました。
この年のオークス馬ラヴズオンリーユー、ダービー馬ロジャーバローズはともにディープインパクト産駒。
自身の愛息子、愛娘の栄冠を見届けて天国へと旅立っていきました。
長いトンネル
夏を越え、目指すは牝馬二冠。
最後の一冠、秋華賞を目指すラヴズオンリーユーはしかし、蹄のトラブルで出走叶わず。
次走を、歴戦の猛者と新星がぶつかる秋の女王決定戦、エリザベス女王杯(G1)に定めます。
1番人気はラヴズオンリーユー。
オークスでも底を見せない強さを見込まれました。
2番人気に秋華賞馬、クロノジェネシス。
3番人気はかつての2歳女王、ラッキーライラックと続きます。
オークスでは、3歳馬らしからぬ落ち着きを見せたラヴズオンリーユー。
しかし、このレースでは終始テンションが上がり、興奮を抑えきれません。
スタート直後、抑えきれないままに2番手につける姿に、場内がどよめきます。
最終直線、追い比べに臨むラヴズオンリーユー、逃げ粘るクロコスミア、追い込む各馬。
優勝は最内から突き抜けたラッキーライラック。
1年8か月ぶりの勝利を飾ります。
ラヴズオンリーユーは3着。
長いトンネルを抜けたラッキーライラックとは対称的に、ここからラヴズオンリーユーは長いトンネルに入ってしまいます。
苦しむオークス馬
次走を年末の香港ヴァーズ(G1)に定めたラヴズオンリーユー。
しかし、エリザベス女王杯後の疲れが抜けきれず、出走は断念。
年明け、ドバイシーマクラシックを目標にするも、世界的なコロナウイルス感染拡大の影響で本年のドバイワールドカップデーは中止。
またもや予定の変更を余儀なくされます。
5月のヴィクトリアマイルに出走を決めるラヴズオンリーユー。
そこには、前年度の三冠牝馬、アーモンドアイも現れます。
3番人気に推されたラヴズオンリーユーでしたが、ポジション取りが窮屈になり7着。
初めて掲示板外になります。
続く鳴尾記念(G3)、府中牝馬S(G2)はどちらも1番人気に推されましたが、2着、5着と勝ち切れず。
前年のリベンジに臨んだエリザベス女王杯もラッキーライラックの連覇を見送り3着。
暮れの有馬記念は10着。
予定通りにいかないレースプラン、勝てないレース内容と苦しい時期を過ごします。
復活
5歳初戦は、京都記念(G2)。
鞍上に初コンビの川田将雅騎手を迎え、レースに臨みます。
出走メンバーには、ダービー馬ワグネリアンや実力馬ステイフーリッシュが名を連ねます。
ラヴズオンリーユーは、状態のよさを見込まれて単勝1.8倍で1番人気。
中団からポジションをあげていき、最後の抜け出しからステイフーリッシュを交わしてゴール。
実に、1年9か月ぶりの勝利を果たします。
ここから、ラヴズオンリーユーの快進撃が始まります。
世界を舞台に
オークス後見込まれていたように、ラヴズオンリーユーは世界に旅立ちます。
まずはドバイシーマクラシック。
同期のクロノジェネシスとともにドバイの地に降り立ったラヴズオンリーユー。
フランスダービー馬で前走サウジカップ(G1)覇者のミシュリフの後塵を拝したが3着につけ、海外の舞台でも力を出せることを示します。
次の舞台は、香港シャティン競馬場で行われるクイーンエリザベス2世カップ(G1)。
エリザベス女王の名を冠した伝統あるレースには、前年の三冠牝馬デアリングタクトはじめ、菊花賞馬キセキ、香港ヴァーズ(G1)勝ちのグローリーヴェイズなど、有力馬が集まります。
ラヴズオンリーユーは、香港の名手ホー騎手に導かれて、海外G1初制覇を飾ります。
いざアメリカへ
その後、休養にあてたラヴズオンリーユーの次のレースは、日本の札幌記念(G2)。
毎年、有力馬が集まる夏の札幌の祭典に、この年もG1クラスのメンバーがそろいます。
香港G1を携えて凱旋したラヴズオンリーユー。
史上初のG1白毛馬でこの年の桜花賞馬、ソダシ。
マイルチャンピオンシップ(G1)勝ち馬、ペルシアンナイト。
グランプリホースのブラストワンピース。
レースは、トーラスジェミニの逃げで始まります。
早め先頭に立ったソダシをめがけて、外からラヴズオンリーユーが襲い掛かります。
先頭に立った勢いそのままにソダシがゴール。
半馬身ほど離れた2着にラヴズオンリーユーが入線します。
負けはしたものの、力を示したラヴズオンリーユー。
次の舞台はアメリカ競馬の祭典、ブリーダーズカップ。
日本競馬史に残る1日
1984年に創設され、数多の名馬が走ったブリーダーズカップ。
2日間で14もの重賞レースが組まれている、世界が注目する舞台にラヴズオンリーユーと同厩舎のマルシュロレーヌは臨みます。
ラヴズオンリーユーは芝の女王決定戦、BCフィリー&メアターフ(G1)に出走。
レースが始まり、ラヴズオンリーユーは5番手、6番手につけますが、終始馬群に包まれ苦しい走りを強いられます。
最終直線手前、鞍上の川田将雅騎手は気合をつけ上位進出を目指します。
最終直線、追いだしにかかったラヴズオンリーユー。
しかし、前にはアメリカのウォーライクグッドネス、その内にアイルランドのラブがいて進路取りがままなりません。
外に持ち出そうにもフランスのマイシスターナットが合わせてきて閉じ込められます。
瞬間、ラブをかわそうとしたウォーライクグッドネスの右側に1頭分の進路が。
そこを見逃さず、ラヴズオンリーユーの末脚が弾け、突き抜けていきます。
かくして、日本調教馬初のブリーダーズカップ制覇を達成します。
その約2時間後、ともにアメリカの地を訪れたマルシュロレーヌもBCディスタフ(G1)を勝利。
日本調教馬BC2勝という歴史に残る日となりました。
世界に愛をこめて
歴史的勝利を挙げたラヴズオンリーユー。
次走の香港カップ(G1)を引退レースとして、アメリカの地から香港へ向かいます。
決して状態がいいわけではない中、最後、勢いに勝る日本のヒシイグアスを持ち前の根性でねじ伏せたラヴズオンリーユー。
海外G1 3勝。オークスと合わせてG1 4勝を記録し、堂々と引退を迎えます。
桜花賞馬グランアレグリアは、芝の古馬マイルG1完全制覇。
秋華賞馬クロノジェネシスは、牝馬初のグランプリ3連覇。
同期の2頭とともに大記録を打ち立てたオークス馬ラヴズオンリーユーは、同期とともに最強牝馬世代と呼ばれ、人々の記憶に刻まれました。
終わりに
ラヴズオンリーユーは日本調教馬初のエクリプス賞を受賞。
世界的な名牝として歴史に名を残します。
その後、無事に繁殖入り。
ディープインパクトが送り出した愛娘は、彼女だけが見た世界を次の世代へと受け継いでいくことでしょう。
コメント