圧巻のG1 3勝。そこには、苦楽を共にしたコンビの絆があった。
期待の逸材
父エピファネイア、母ケイティーズハート。
ギリシャ語で「強い幸福感」を意味する名をつけられたエフフォーリアは、2週前の追い切り調教に乗った横山武史騎手から「重賞でも勝ち負け」と言われるように、素質を見込まれていました。
デビュー戦を単勝1.4倍の1番人気に応えて快勝したエフフォーリアは、続く百日草特別(1勝クラス)を勝ち2連勝。
次走を共同通信杯(G3)に駒を進めます。
共同通信杯には、サウジアラビアRC(G3)を勝ち朝日杯フューチュリティステークス(G1)2着のステラヴェローチェをはじめ、ヴィクティファルスやシャフリヤール、キングストンボーイといったメンバーが集まります。
エフフォーリアは好位から抜け出し、2着に2馬身差以上つける完勝をおさめます。
横山武史騎手がデビュー前に言っていた「重賞で勝ち負け」が現実となりました。
無傷の3連勝を果たしたエフフォーリアと23歳の若武者、横山武史騎手はクラシック第一冠、皐月賞に向かいます。
三冠が見えた皐月の舞台
迎えるは、中山2000mで行われる皐月賞。
2歳G1ホープフルステークスを勝ったダノンザキッドを筆頭に、弥生賞ディープインパクト記念(G2)を勝ったタイトルホルダー、きさらぎ賞(G3)の勝者ラーゴム、共同通信杯の2着でスプリングステークス(G2)を勝利したヴィクティファルス、5着のステラヴェローチェといったメンバーがそろいます。
エフフォーリアはダノンザキッドに続く2番人気。
レースは、ワールドリバイバルが逃げてよどみなく流れていきます。
4コーナー、2番手につけていたタイトルホルダーが先頭に立った内側からエフフォーリアが抜け出しにかかります。
直線手前でタイトルホルダーと馬体を合わせたが最後、そのまま突き抜けていきました。
2着に3馬身をつけた完勝でした。
前年のコントレイルに続き無敗の皐月賞馬の誕生。
横山武史はデビュー5年目で初のG1勝利。
鹿戸調教師は2008年スクリーンヒーローで勝ったジャパンカップ以来のG1勝利となりました。
さらにエフフォーリアの強さを印象付けたのは2着につけた着差タイム。
2着に0.5秒差をつけた皐月賞制覇は、ナリタブライアン、オルフェーブルに続き3頭目。
前述の2頭が三冠を制覇したため、エフフォーリアもその期待がかかります。
次走はクラシック二冠目、すべてのホースマンの夢、日本ダービー。
世代の頂点を証明するために大舞台に臨みます。
衝撃の敗戦
迎えるは日本ダービー。
歴代の三冠馬と同じように皐月賞を完勝したエフフォーリアは、単勝1.7倍の1番人気に推されて、二冠目に挑みます。
ウォッカ以来の牝馬ダービー勝利を狙う桜花賞2着サトノレイナスや皐月賞2着のタイトルホルダー、ヴィクティファルスやラーゴム、ステラヴェローチェなどの皐月賞メンバーも顔を合わせます。
その中には、皐月賞未出走、共同通信杯3着のシャフリヤールがいました。
シャフリヤールは、共同通信杯の後、賞金加算を図るために毎日杯に出走。
グレートマジシャンとの競り合いを制し、ダービーの舞台に駒を進めてきました。
レースはバスラットレオンが逃げて、2番手にグラティアス。
エフフォーリアは先団から中団につけます。
最終直線、馬場の真ん中に持ち出したエフフォーリアは満を持して抜け出し。
そのまま突き抜けるかという勢いでしたが、内から猛然と追い込んでくる馬が1頭。
シャフリヤールと福永祐一騎手。
ゴール前、ハナ差10cm。
無敗のクラシック二冠と横山武史騎手のダービー制覇は、かつて共同通信杯で下したライバルと2018年に悲願のダービー制覇を果たしたベテランに阻まれました。
後のインタビューでダービー後について横山武史騎手はこう答えています。
「初めてですね、もう放心状態。(レース後に)周りの先輩からいろいろ声を掛けてもらったのですが、覚えていないです。今も完全に癒えてはいないし、正直、チラッと思い出すことがあるんです。」
かつてない悔しさを携えた若きコンビは、夏を越え、秋の決戦へと臨みます。
さらに強くなるために
夏を休養にあてたエフフォーリアの次走は、古馬の一線級が出そろう天皇賞(秋)と発表されました。
クラシック最後の一冠、菊花賞には向かいませんでした。
その理由として、鹿戸調教師はこう答えています。
「阪神競馬場への輸送と3000m走ることの負担を考えて、菊花賞は見送りました。(天皇賞の舞台の)東京2000mの方が合っていると思います。」
「今後は格上の相手とぶつかる。強い相手と戦わなければさらに強くなることはできない。」
さらに強さの階段を上るため、ダービーの悔しさを晴らすため。
エフフォーリアは秋の盾獲りに挑みます。
秋の決戦
天皇賞(秋)(G1)には、2頭の注目馬が出走します。
前年のクラシック三冠馬、コントレイル。
父ディープインパクト以来、無敗のクラシック制覇を果たしています。
前走大阪杯は3着に敗れていますが、現役トップクラスの実力をもちます。
もう1頭は、マイルの女王グランアレグリア。
2年前の桜花賞を異次元の脚で制し、これまでマイルG1を5勝しています。
エフフォーリアを合わせて、3つ巴の様相を呈します。
歴史上、天皇賞(秋)を制した3歳馬は2頭しかいません。
1頭は、エアグルーヴとのたたき合いを制したバブルガムフェロー。
もう1頭は、漆黒の帝王シンボリクリスエス。
3歳馬が勝つには速さだけでなく、強さも必要でした。
1番人気はコントレイル。2番人気はグランアレグリア。
続く3番人気にエフフォーリア。
レースは、カイザーミノルの逃げで進みます。
2番手にグランアレグリア。
エフフォーリアは中団につけ、その後ろにコントレイルがつけます。
直線、抜け出しを図るグランアレグリアを残り200mで捉えるエフフォーリア。
そのエフフォーリアを捉えようと迫るコントレイルの追撃を抑え、見事に勝利を収めました。
コントレイルの鞍上は、ダービーで辛酸をなめさせられた福永祐一騎手。
リベンジを果たし、エフフォーリアはさらなる強さを証明しました。
レース後、横山武史騎手は「ダービーのこともあって人生で初めてうれし泣きしました。」とコメントを残しています。
新たな時代の継承
エフフォーリアは暮れの大一番、有馬記念に向かいます。
天皇賞(秋)でしのぎを削った2頭はともにターフに別れを告げました。
グランアレグリアはマイルチャンピオンシップで大歓声の中、G1 6勝を記録。
コントレイルはジャパンカップの舞台で三冠馬の矜持を示し、有終の美を飾ります。
有馬記念には、牝馬初のグランプリ(宝塚記念、有馬記念)3連覇の女帝、クロノジェネシスが出走します。
レースは、パンサラッサが後続をやや離して逃げます。
最終直線、ディープボンドと馬体を合わせたエフフォーリアはそのままゴール板を通り過ぎました。
クロノジェネシスは3着。
このレース後、クロノジェネシスの引退式が執り行われました。
エフフォーリアは年度代表馬と最優秀三歳牡馬に選ばれました。
コントレイル、グランアレグリア、クロノジェネシスといった時代を彩る名馬たちが去り行く中、エフフォーリアの活躍に人々は新時代の到来を感じます。
おわりに
エフフォーリアはその後、大阪杯(G1)や宝塚記念(G1)に出走しますが大敗。
原因不明の不調に陥ります。
5歳の春、京都記念(G2)で心房細動が起こり競走中止。そのまま引退を迎えます。
退厩の時、笑顔でエフフォーリアを見送った横山武史騎手。
その後のインタビューで涙ながらに、
「本当にたくさんのことを学ばせてもらって感謝しきれません。僕はあの子に対してムチを叩くことしかできなかった。それが僕の仕事なんですけど、しんどかったと思うし、これからは叩かれることもないので、第二の馬生を幸せに過ごしてもらいたい」
と、心情を述べます。
デビューから引退までの11戦すべてで手綱を取り、栄光も挫折も共に経験したコンビは、またそれぞれの道に進んでいきました。
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