2022年、天皇賞(秋)の舞台。人々の胸に刻まれた我が侭のハイペース。
パンサラッサについて
パンサラッサの父は、香港スプリントなど短距離路線で活躍したロードカナロア。
母は、未勝利ながら繁殖入りしたミスペンバリー。
母父は、かつて凱旋門賞でエルコンドルパサーを破り、欧州最強馬として君臨したモンジュー。
馬名の意味は、「かつて地球に存在した唯一の海」
その名のように唯一無二をするパンサラッサの走りは、日本、はたまた海を越えた世界を沸かせるのでした。
世代の王者
パンサラッサのデビューは2019年。
上の世代には、芝マイル完全制覇のグランアレグリアや海外G13勝で日本調教馬初のブリーダーズカップを制覇したラヴズオンリーユー、牝馬初のグランプリ3連覇のクロノジェネシスがいます。
メイクデビューを6着で終えたパンサラッサは、3戦目の未勝利戦で勝利しエリカ賞を挟んでG1ホープフルSに出走します。
世代の2歳王者を決めるホープフルSには、1頭の注目馬が出走します。
日本を代表する名馬であり、父としても数々の名馬を送り出してきたディープインパクトを父に持つコントレイルです。
パンサラッサとコントレイルは同じ矢作調教師の管理馬でした。
レースは、パンサラッサがハナに立ち、前半1000m1分09秒のペースで進みます。
最終直線、パンサラッサは逃げ粘りを図りますが2番手まで押し上げてきたコントレイルや後続の馬に交わされ6着。
負けはしましたが、父譲りのスピードをアピールしたレースでした。
積み重ねるキャリア
3歳初戦は若駒S(リステッド)。
6頭立ての小頭数のレースとなったこのレースでも、前走に引き続き、積極的に前へ出て逃げを打ちます。
3コーナー過ぎでは1度後続を引き離しましたが、直線で後続のケヴィンやアリストテレスが迫ってきて4着。
未勝利戦以降、勝ちをつかむことができません。
次走は報知杯弥生賞ディープインパクト記念(G2)。
しかし、9着に敗れ、皐月賞(G1)への出走は断念することとなりました。
休養をはさみ挑む3勝以上1勝クラス。
1000m1分4秒ながら後続を離す逃げで逃げ切り勝ち。
自己条件で強さを見せつけました。
7月のラジオNIKKEI賞(G3)では、バビットが逃げたため3番手に控える競馬をします。
直線では、バビットに突き放されつつも後続には抜かさせず2着を確保。
夏を越え、菊花賞(G1)の前哨戦、神戸新聞杯(G2)に挑戦します。
ホープフルS以来、同厩舎のコントレイルとの対決になりましたが、ラスト300mあたりで脚が上がったパンサラッサはそのまま後退。
12着と苦い結果になりました。
その後、オクトーバーS(リステッド)、アンドロメダS(リステッド)、師走S(リステッド)を走りますが、勝利することなくオープン入りできないまま3歳シーズンを終えます。
刻むハイペース
年明けの関門橋S(オープン)、中山記念も2着、7着と勝ち切ることができず。
4月の読売マイラーズC(G2)を左前脚跛行(歩行の乱れの一種)によって除外。
10月まで休養となります。
復帰戦のオクトーバーS。
前年に2着に敗れているこのレースで逃げ切り勝ちを収め、19戦目でオープン入りを果たします。
続くレースは福島記念(G3)。
このレースで今後のパンサラッサのスタイルが固めることとなります。
スタート後、早々にハナに立ったパンサラッサは2番手のコントラチェックを後目に向こう正面へ。
前半1000mで記録されたのは57.3秒!
これまでのパンサラッサのペースよりも2秒以上速いタイムでした。
4コーナー手前で2番手にいたコントラチェックが後退。
しかしパンサラッサの手ごたえは鈍らず、そのまま後続に差をつけてゴールイン。
オープン入りの直後に重賞初制覇を果たします。
重賞勝利を掲げて迎えるは有馬記念。
ここでも積極的にハナを奪いますが、4コーナーを回ったところで手ごたえが鈍り、馬群に沈んでいきました。
年明け初戦は中山記念(G2)。
ここで、パンサラッサは以降コンビを組む吉田豊騎手を鞍上に迎えます。
前半1000mを57秒6で逃げるパンサラッサ。
その後ろにワールドリバイバル、コントラチェック、ウインエクシードが先団を形成しますが。パンサラッサが作り出したハイペースについていけず。
差し馬の追撃もなんのその、2着に2馬身以上差をつけての完勝でした。
そしてパンサラッサは、海を越えドバイの地へ向かいます。
世界の舞台で
中山記念を制したパンサラッサの次走は、ドバイG1ドバイターフ。
1着賞金4億円ともいわれるこのレースは、G1昇格後アドマイヤムーン、ジャスタウェイ、リアル、ヴィブロス、アーモンドアイが勝利しています。
出走メンバーは前年度覇者ロードノース、UAEのG1ジュベルハッタを勝利したアルファリーク、アメリカG1ペガサスWCターフ勝ち馬のカーネルリアム。
日本からは2021年NHKマイルC覇者、マイルCSでグランアレグリアの2着と力を見せたシュネルマイスター、前年ドバイターフ2着でリベンジを期すヴァンドギャルドなど、世界の舞台にふさわしい錚々たるメンバーがそろいます。
いつも通りハナに立ったパンサラッサは馬群を引き連れてレースを引っ張ります。
4コーナーを回っても手ごたえに余裕のあるパンサラッサは2番手にリードを広げます。
外から襲い掛かるロードノース。
しかし、粘りをみせるパンサラッサ。
ゴールのタイミングはちょうど2頭が並んだところ!
パンサラッサとロードノース、2頭の同着となり、パンサラッサは初のG1勝利を海外の舞台で達成します。
世界の歴史にパンサラッサの名前が刻まれた瞬間でした。
稀代の逃亡者
ドバイを制したパンサラッサの次走は、上半期日本競馬の総決算、宝塚記念(G1)。
前年度菊花賞(G1)、天皇賞(春)(G1)を連勝し、現役最強を証明しようとするタイトルホルダー。
前年度年度代表馬エフフォーリア。
前走、初のG1勝利を果たしたポタジェ。
一昨年の三冠牝馬で怪我からの復活を期すデアリングタクト。
悲願のG1制覇を目指す実力馬ディープボンド。
ヒシイグアス、ウインマリリンなど総決算らしいスーパーホースたちがそろいます。
いつも通りハナに立ち、前半1000mを57.6秒のハイペースを刻んだパンサラッサ。
4コーナーで2番手にいたタイトルホルダーにつかまりそのまま失速。
8着の入線となりました。
優勝したタイトルホルダーは2分09秒07のレコードタイムを記録。
パンサラッサが生み出したペースも作用した結果でした。
続く札幌記念(G2)では、G12勝白毛馬ソダシ、素質馬ジャックドールと対決。
ジャックドールとのハナ争いの果て2着を確保します。
そして、秋の大一番、天皇賞(秋)(G1)へ向かいます。
大けやきの向こう側から
府中2000mを舞台に数々の名レースが繰り広げられた天皇賞(秋)。
歴史と伝統ある秋の盾獲りにパンサラッサは挑みます。
注目馬は、早くからその素質を見出されながらも皐月賞2着、日本ダービー2着と惜敗が続いた3歳馬イクイノックス。
パンサラッサとともにドバイの地で勝ち名乗りを挙げた前年度ダービー馬、シャフリヤール。
札幌記念でパンサラッサを下し、いよいよ本格化を迎えるジャックドール。
前年度オークスを制し、父ゴールドシップに初のG1をプレゼントしたユーバーレーベン。
高い東京適性を見込まれながらもダービー3着の3歳馬ダノンベルーガなど、激闘を演じるにふさわしいメンバーが集まりました。
ここ2走、スタートダッシュがつかず位置取りに苦戦していたパンサラッサ陣営は、観客の前でパンサラッサの覆面を外しスイッチを入れる作戦を用います。
この作戦が功を奏し、これまでと違いすんなりスタートを切ることができたパンサラッサ。
序盤の位置取り争いを終え、向こう正面に入ったパンサラッサはどんどんペースを上げていき、後続を引き離していきます。
そして前半1000mに刻まれたラップタイムは57.4秒!
1998年、稀代の快速馬が刻み、そして悲劇に終わったラップタイムと同じ時計をパンサラッサはマークします。
東京競馬場のシンボルである大けやきを通り過ぎ迎えた3コーナー、後続に15馬身以上引き離したパンサラッサに人々は24年前の夢の続きを見ます。
直線が入っても大きくリードをつけたパンサラッサ。
このままいってしまうのかと思われたレースの最後、後に世界最強馬に君臨する天才イクイノックスの猛烈な追込みにとらえられ、惜しくも2着に終わります。
しかし、人々の胸には、「世界のパンサラッサ」の雄姿が刻まれるレースとなりました。
終わりに
パンサラッサは以後、サウジカップ(G1)勝ちなど国際G12勝を飾り、2023年に引退を迎えます。
本来、勝利したレースを取り上げるべきなのですが、パンサラッサを思い浮かべたとき、どうしてもこの天皇賞(秋)が胸から離れませんでした。
どのレースでも我が侭の大逃げを打ち、数々の名レースを演出してくれたパンサラッサ。
その子どもが再びターフを沸かせることを夢見ています。
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