無敗でたどり着いた女王の座。それは、女王に課された試練の始まりだった。
3連勝で世代の女王へ
ラッキーライラックは父オルフェーヴルの初年度産駒としてデビューしました。
新馬戦を1馬身差以上つけて勝利。続くアルテミスS(G3)も勝ち切り、2歳牝馬の頂点を決める阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神JF、G1)へ駒を進めます。
阪神JFでは、中団から外に持ち出し、最終直線を3番人気リリーノーブルとの競り合いを制し、3連勝で世代の女王へと君臨します。
桜の舞台に現れた、驚異の末脚
年明けの初戦、チューリップ賞(G2)を堂々の1番人気で勝利したラッキーライラックは、牝馬三冠の第一冠、阪神JFと同じ舞台の桜花賞(G1)へ臨みます。そこには、シンザン記念(G3)で世代の牡馬をなで斬ったアーモンドアイもいました。
ラッキーライラックは単勝1.8倍の1番人気。続く2番人気にアーモンドアイ。どちらが桜の女王に君臨するのか、人々が注目する中、ゲートが開きます。
ラッキーライラックは好スタートから前目に控えます。アーモンドアイは後方。最終直線、好位から抜け出し押切を図るラッキーライラックの勝利かと見えた瞬間、大外から驚異の末脚を見せたアーモンドアイがすべてをなで斬りました。
かくして、2歳女王の挑戦が始まりました。
持ち去られた「世代の女王」、現れた「新たな歴史をつくる馬」
迎えるは、牝馬三冠の第二冠、オークス(G1)。2400mという、この時期の牝馬には未知の距離でラッキーライラックは雪辱を期します。
1番人気は、桜の女王アーモンドアイ。ラッキーライラックは続く2番人気に推されました。ラッキーライラックの松永調教師の「距離は長いほうがいい」という言葉もあり、十分逆転の可能性はありました。
レースは前目につけた半馬身後方にアーモンドアイがつける形になりました。4コーナーを回り、ほぼ同時に追い出しにかかった2頭。ぐんぐん加速するアーモンドアイに比べて、ラッキーライラックは坂のあたりで脚が止まってしまいます。アーモンドアイは上り最速33.2秒をマークし二冠達成。ラッキーライラックは3着に終わりました。
夏を越え、ラッキーライラックは18kg増の充実した馬体を見せます。
牝馬三冠最終戦、秋華賞(G1)。人々の目は、ジェンティルドンナ以来の牝馬三冠を成しえるかというところに集まりました。
1番人気はアーモンドアイ。2番人気はラッキーライラック。アーモンドアイの単勝は1.3倍と圧倒的支持を集めました。2歳女王として、最後の一冠は譲れない一戦。勝ったのは世代の女王を飛び越えた、「新たな歴史をつくる馬」でした。
2歳女王、雌伏の刻
アーモンドアイの歴史的レコードを見送るラッキーライラックは、年明けの初戦を中山記念(G2)
に定めます。
6番人気と見込まれてはいませんでしたが、牡馬の混じる中、堂々の2着。力を示します。
牝馬の中では力は上位とみられ、次走は阪神牝馬S(G2)。そこからヴィクトリアマイル(G1)へ臨みます。
阪神牝馬S、単勝1.5倍の圧倒的1番人気に推されますが、直線の伸びがなく8着。不安を抱えたまま春のマイル女王決定戦、ヴィクトリアマイルに臨みます。
本命不在とみられたヴィクトリアマイルは、ラッキーライラックが単勝4.3倍の1番人気。
レースは、遠征帰りのアエロリットが逃げて緩みのないペースを刻みます。ラッキーライラックは先団後ろにつけ、直線の追い比べに入ります。抜け出すかと思ったその時、外から同期のノームコアが飛んできます。ノームコアはそのままゴール。刻まれた1分30秒5は日本レコードでした。
アーモンドアイ、ノームコアという2頭の同期によって、ラッキーライラックを表する言葉は、「かつての2歳女王」となってしまったのでした。
かつての2歳女王、復権へ
ヴィクトリアマイルでのラッキーライラックの刻んだタイムは1分30秒6。日本レコードと0.1秒差と、決して力で劣っていたわけではありません。陣営は、ラッキーライラックの力を信じて、夏を休養。秋の府中牝馬S(G2)からエリザベス女王杯(G1)を目指します。
府中牝馬Sでは、3着。これで、ラッキーライラックは3歳のチューリップ賞以来1年7か月勝利のない中で女王決定戦へ臨みます。
2歳女王は、正真正銘の女王へ
迎えるエリザベス女王杯。出走するのは、その年無敗でオークスを制したラヴズオンリーユー。秋華賞馬クロノジェネシス。後にグランアレグリアと最強牝馬世代を形成する3歳馬2頭との対決です。
ラッキーライラック陣営には2つの策がありました。まずはラッキーライラックの“スイッチ”を入れるタイミング。気性が荒いことで有名だった父オルフェーヴルと同じく、ラッキーライラックの走るスイッチをいつ押すか。陣営は考えました。
もう一つは、鞍上。これまで手綱を握っていた石橋騎手に代えて、短期来日している名手クリストフ・スミヨン騎手に手綱を任せます。スミヨン騎手は、父オルフェーヴルとともに凱旋門賞を走り、2着になった実績があります。この2つの策を持って、女王奪還を目指します。
1番人気はラヴズオンリーユー。2番人気はクロノジェネシス。ラッキーライラックは3番人気。
レースは開始後、観客のどよめきが響きます。レース前から興奮を見せていたラヴズオンリーユーが掛かりを見せて2番手へ。想定外の展開でも、ラッキーライラックは中団の内へつけます。
4コーナーを回り、最終直線を入るとき、スミヨン騎手は空いた最内を突きます。内から目いっぱいの檄が飛びます。クロノジェネシスほか、後ろの各馬が押し寄せる中、内からラッキーライラックが突き抜けます。かくして、かつての2歳女王は復活を果たし、真の女王へと上り詰めたのでした。
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