父から子へ受け継がれた主役の座。
銀幕のヒーロー、スクリーンヒーロー
父は栗毛の怪物、グラスワンダー。母は、サンデーサイレンス産駒ランニングヒロイン。母の母は毎日王冠など重賞5勝のダイナアクトレス。血統として期待される逸材でした。
スクリーンヒーローは、3歳未勝利戦を勝った後、3歳500万下のダートを勝利し連勝。
その後、ダートと芝のレースを行き来します。
転機が訪れたのは、夏のラジオNIKKEI賞(G3)。
14番人気ながら荒れた馬場を味方につけて2着と健闘します。
この結果をもって、芝のレースに照準を定めます。
続く新潟記念(G3)は、直線で伸びることができず16着。
希望も失望も味わった夏となりました。
秋初戦に選んだのは、菊花賞(G1)のトライアルレースであるセントライト記念(G2)。
セントライト記念では、14番人気ながら3着に入り、またも馬券に波乱をもたらします。
さらに、3着に入ったことで菊花賞への優先出走権を獲得。
世代最強を決める戦いに向かいます。
頓挫と期待
いざ菊花賞へというその時。
全治6か月の剥離骨折が起こってしまいます。
しかし、うまく調整すれば菊花賞への出走は間に合いそうでした。
当時、スクリーンヒーローを管理していた矢野厩舎のスタッフは、菊花賞出走を推しました。
もうすぐ、定年退職となる矢野調教師にクラシックタイトルをプレゼントするためです。
しかし、矢野調教師は「菊は断念する。私は定年になるが、この馬には将来がある。無理しなければ、この馬は必ず大成する。そういう血統なんだ。」といい、スクリーンヒーローの未来を願い、完治を目指しました。
翌年、スクリーンヒーローは新規開業の鹿戸調教師のもとに預けられます。
目覚めた血統
ちょうど11か月後、スクリーンヒーローは復帰戦として支笏湖特別(1000万下)に出走し、1番人気にこたえて勝利します。
この時、スクリーンヒーローを鹿戸調教師は何となく長い距離が合うのではないかということで、2600mのレースを選択しました。
ここから、スクリーンヒーローの道が開けていきます。
続く札幌OP(オープン)、オクトーバーS(1600万下)を2着につけ、着実に賞金を重ねていきます。
復帰後の4戦目に選んだのは格上挑戦となるアルゼンチン共和国杯(G2)。
直線、馬場の真ん中に持ち出したスクリーンヒーローは、2番手から抜けだし粘りこみを図るテイエムプリキュアを捉えます。
後の春の天皇賞馬、ジャガーメイルを抑えきり、勝利します。
鹿戸調教師は初の重賞タイトル。もちろんスクリーンヒーローにとっても嬉しいタイトル獲りになりました。
鹿戸調教師はレース後、「順調に行けば大きなところを狙えると思っていましたが、今日の勝利で確信できましたね」と述べ、期待は自信へと変わりました。
長い苦労を経験した血統馬は、新人調教師とともに、より大きなタイトルへ挑みます。
堂々の主役
続くはジャパンカップ(G1)。スクリーンヒーローにとっては初のG1の舞台です。
その年のダービー馬、ディープスカイが1番人気。
2番人気は、前走、天皇賞(秋)(G1)でダイワスカーレットとの壮絶なたたき合いを制したウォッカ。
3番人気はクラシック2冠馬メイショウサムソン。
そのほか、前年の有馬記念でダイワスカーレットを下すマツリダゴッホやスクリーンヒーローの同期で菊花賞馬のアサクサキングスなど、錚々たるメンバーがそろいます。
スクリーンヒーローは、9番人気。
しかし、充実の一途をたどる「銀幕のヒーロー」にとっては、それらは脇役に過ぎなかったのかもしれません。
レースは、予想されていなかったネヴァブションが逃げ、緩やかなペースで流れます。
スクリーンヒーローは、アルゼンチン共和国杯と同じく先団に位置取ります。
4コーナーを回り、直線勝負。スクリーンヒーローは、馬場の真ん中に持ち出し、ディープスカイ、ウォッカの追撃を制し勝利しました。
スクリーンヒーロー、鹿戸調教師ともに初のG1タイトル。
緑のターフで銀幕のヒーローが主役に躍り出ました。
そして、主役の座は息子に受け継がれていきます。
金色の名優、ゴールドアクター
ゴールドアクターは、父スクリーンヒーロー、母ヘイロンシン。
父と同じように3戦目の3歳未勝利戦で初勝利を飾ります。
その後、2戦でともに2着とまずまずの成績を収めます。
続くは、日本ダービー(G1)のトライアルレース、青葉賞(G2)。
ダービーの権利を獲りたかったゴールドアクターは4着に敗れ、ダービー出走は叶いませんでした。
次走に選んだのは、父も勝った支笏湖特別。1番人気にこたえ勝利をおさめます。
賞金を重ね、出走したのは菊花賞。7番人気ながら3着に食い込むなど、ポテンシャルの高さを見せます。
菊花賞後、年明け3月のサンシャインSを目指しますが、疲れが抜け切らないため無理をせず休養。
7月の洞爺湖特別(1000万下)に出走に向かいます。。
洞爺湖特別では単勝1.9倍1番人気にこたえ、勝利します。
続くオクトーバーS(1600万下)も勝利し連勝。
賞金を重ね、出走に臨むはアルゼンチン共和国杯。
出走メンバーには、連勝を狙うプロモントーリオや菊花賞2着馬サトノノブレスらが参戦。
直線で馬場の真ん中に持ち出し、メイショウカドマツとの競り合いを制して、重賞初制覇。
合わせて管理する中川調教師、馬主の居城要氏、生産牧場の北勝ファームの重賞初制覇を果たします。
次走、父と同じように秋のビッグタイトル獲得を狙います。
受け継がれし主役の血
アルゼンチン共和国杯の後、状態を鑑みてゴールドアクターはジャパンカップをパスします。
狙うは年末のグランプリレース、有馬記念(G1)。
1番人気はG16勝、このレースで引退を表明しているゴールドシップ。
2番人気は、この年の宝塚記念(G1)、天皇賞(秋)で勝利しているラブリーデイ。
そのほか、その年の菊花賞馬キタサンブラック、エリザベス女王杯(G1)勝ちのマリアライト。
前年のダービー馬ワンアンドオンリーや菊花賞2着馬サウンズオブアースといったメンバーがそろいます。
ゴールドアクターは単勝17.0倍の8番人気。決して本命視されていませんでした。
レースはじめ、キタサンブラックが先手を取って逃げます。
続く2番手は同じく3歳馬で菊花賞3着のリアファル。
ゴールドアクターは3番手につけます。
2周目3コーナー、ゴールドシップは最後方から代名詞である捲りを見せ先団に取り付きます。
4コーナーを回り最終直線、逃げるキタサンブラックと馬体を合わせるマリアライトを外からゴールドアクターが交わし去ります。
サウンズオブアースの追撃をしのぎ、1着でゴールイン。
中川調教師、吉田隼人騎手、居城要オーナー、生産牧場の北勝ファーム、そしてゴールドアクターにとっても大きなG1初勝利となりました。
「銀幕のヒーロー」から受け継いだ主役の血、「金色の名優」は見事に主演男優賞を勝ち取りました。
おわりに
スクリーンヒーローからゴールドアクターの物語、いかがでしたか。
どちらも本命ではなかったレースで、見事に勝利をおさめた両馬は、どこか似た道を歩んでいたように思います。
特にゴールドアクターの有馬記念は、ゴールドシップという数々の伝説を持つ(ゴルシワープ、120億円事件など)、みなに愛された名馬の引退レースともあって、衆目はゴールドシップに集まりました。
それでも、有馬記念では間違いなく主役となった名馬だと思います。
ゴールドアクターの血統をたどるとグラスワンダーが現れます。
かつて、有馬記念、宝塚記念とグランプリ3連覇を果たした栗毛の怪物が残した血。
その血を受け継いだゴールドアクターが有馬記念を勝つのは、運命的ロマンを感じますね。
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